ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツはヴェトナムを拠点に国際的に活動する建築設計事務所である。主宰者のヴォ・チョン・ギアは東京大学大学院で内藤廣に建築を学び、2006年に帰国してホーチミン市に設計事務所を開設。2010年にはハノイ支部と施工会社を設立している。現在スタッフは総勢60名を越える。ARCASIA賞ゴールドメダル、アーキテクチュラル・レビュー住宅賞など、受賞は多数にのぼる。
ヴェトナムは人口の約7割が農業生産者の一大農業国であり(米の輸出量はタイに次いで世界2位、コーヒーもブラジルに次いで世界2位)、地方に目を向けると素朴な田園風景が広がっている。しかし、近年の気候変動の影響で深刻な干ばつや洪水に見舞われることも多く、ヴェトナム最大の稲作地帯であるメコン川流域は海面上昇による農地減少のリスクも抱えている。このような農村と都市部の間には格差が広がっている。例えばメコン川流域の農業生産者の平均年収は1,500ドル程度で、ホーチミン都市部の住民に比べると3分の1に過ぎない。この格差をどう埋めていくかは、ヴェトナムに限らずアジアの新興国が抱える大きな課題である。ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツによる一連の低所得者用住宅プロジェクトは、このような社会問題を背景としたサステイナブルな農村住宅の提案である。
竹の建築
日本留学からヴェトナム帰国後まもなく、ヴォ・チョン・ギアは処女作《ウィンド・アンド・ウォーター・カフェ》(2006)を完成させた。屋根垂木と装飾に竹を用いたこのカフェは一連の「竹建築」の始まりである[★1]。「安価の材料」という現実的・実際的な理由から竹を使いはじめたギアは、その後のプロジェクトを通じて竹を構造材として使用する方法を確立し、洗練させていった。それらは一見すると土着的・伝統的に見えるが、じつはヴェトナムには伝統的な竹建築は存在しない。薬剤を使わない防腐処理、曲げ加工のノウハウ、鉄を排した接合部のディテール、細い竹を束ねあわせる方法など、ほとんどはギアの創意工夫である。ヴェトナム国内はおろか世界でもほぼ類を見ない竹建築をつくりだすために、ギアは故郷の農民を集めて独自の職人集団を組織している。
ベトナム建築家ヴォ・チョン・ギアが難民や被災地のためのプレハブ住宅を計画。鉄骨造で約20~30万円のコストがかかる。各部材は50kg以下に抑え遠隔地にも対応